事例) サッカー試合中、生徒が落雷を受け後遺障害を負った事件で、高校に損害賠償を請求できるか?

 全力疾走で有名な私立土佐高校のサッカー部に所属していた1年生の生徒(X)が,課外のクラブ活動の一環として参加していたサッカーの試合中に落雷を受ける事故が発生した。  落雷事故が発生した日は,午後2時前には,上空に雷雲が現れ,小雨が降り始め,時々落雷が聞こえるようになり,午後3時ころには,上空の暗雲が立ち込めて暗くなり,豪雨が降り続き,午後3時15分には,雷注意報が発令された。午後4時30分ころには,雨がやみ,上空の大部分は明るくなりつつあったが,グラウンドの南西上空には黒く固まった暗雲が立ちこめ,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていた。ただ,雷鳴は大きな音ではなく,遠くの空で発生したものと考えられる程度であった。

 このような状況の中で,サッカーの試合が午後4時30分ころ開始されたが,開始後間もなく,生徒の一人に落雷し,その生徒は幸いにも一命をとりとめたものの,視力と両手の自由を失う後遺障害を負うこととなった。

 なお,落雷による死傷事故は,平成5年から平成7年までに全国で毎年10件弱発生し,毎年5人弱が死亡していたが,落雷による死傷事故を予防するための注意点に関しては,本件当時,多くの文献に,運動場に居て雷鳴が聞こえるときには,遠くても直ちに屋内に避難すべきであるとの趣旨の記載が存在していた。  本件では,Xが,本件事故に関し,引率教諭等には,落雷を予見して回避すべき安全配慮義務を怠った過失があるなどとして,両親らと共に,高校等に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償を請求した事案である。

 落雷が一般的には天災と位置付けられているところであり,予測が困難と考え得ることなどから,本件では,特に,引率教諭が落雷事故発生を具体的に予見し得たといえるか否かが争われた。

【解答】 破棄差戻 当判決:最高裁判所 平成18年3月13日第二小法廷判決  原審:高松高裁 平成16年10月29日判決 原原審:高知地裁 平成15年6月30日判決

判例タイムズ 1208号 85頁,判例時報 1929号 41頁

<原審>

 自然科学的な見地からいえば,本件落雷事故発生当時の状況においては引率教諭は,落雷の予兆があるものとして,試合を直ちに中止させて,サッカー部員を安全な空間に避難させるべきであったということになるが,社会通念上,落雷が聞こえていることなどから直ちに一切の社会的な活動を中止又は中断すべきことが当然に要請されているとまではいえず,また,平均的なスポーツ指導者においても,落雷事故発生の危険性の認識は薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったと考えられるなどとして,引率教諭のおいて,落雷事故発生を予見することが可能であったとはいえず,また,これを予見すべきせあったともいえないとして,高校の債務不履行責任又は不法行為責任を否定した。

<第二小法廷>

 落雷による死傷事故で毎年5人弱が死亡していることに照らすと,落雷による死傷事故は決して稀なこととはいえず,また,落雷事故を予防するための注意点に関しては,多くの文献に,運動場に居て雷鳴が聞こえる時には,遠くても直ちに屋内に避難すべきであるとの趣旨の記載が存在していたというのであるから,生徒を保護すべき注意義務を負う教師としては,これらのことについて落雷事故を予防するための知見として身につけておくべきところであったところ,本件落雷事故当時,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていたという状況にあったとういうのであるから,引率教諭としては,右知見を基に,落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり,また,予見し得なかったとすれば,予見すべき注意義務を怠ったものというべきであるなどと判断して,これと異なる判断の原判決を破棄した上で,引率教諭が落雷事故発生の危険を具体的に予見していたとすれば,どのような措置を執ることができたか,その措置を執っていたとすれば,落雷事故の発生を回避することができたかなどについて,更に審理を尽くさせるために,本件を原審に差し戻した。

あすか法律情報 平成18年7月号-2

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— posted by infoaska at 04:41 pm  

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